鍼の米国における地位と変貌(アメリカで鍼灸師になりたいかも?)について II

 

Acupuncturist = 英語の訳は「鍼師」です。米国では「鍼灸師」という言葉の正確な訳は、とっても長くなるのですが Acupuncture & Moxibustion Practitioner みたいになります。こちらはお灸は日本のように別途資格試験がある訳ではないので、職業や資格としては灸についてはほとんど言及されないため、この長い言葉は殆ど聞くことがありません。ただ、米国だとどこの州に住んでいても、一般的に試験をパスしてLicense=ライセンス 取得が州ごとに必要ですので、日本語の「鍼灸師」の英語訳でもっとも近いのは、Licensed Acupuncturist = L.Ac. となります。 (お灸はどこへ!?って話は別にあとで書こうと思います。)

鍼を含む中医・東洋医学のDoctoral (ドクター学位)の資格がある場合には、Doctor of Acupuncture in Chinese Medicine とか Doctor of Oriental Medicine みたいなタイトルがつくので、短くして DACMとか DOMとか表記されます。中医学を職業にしている人、鍼師や中国のハーブを処方できる資格を持つ人の名刺の頭に「D」がついたら基本はドクターの学位を持っているという理解で良いと思います。 

ちなみにこの学位ですが、最近日本国内で中国の大学分校(?)に行って、基本通信教育と筆記試験で、国際中医?みたいな名称の資格が取れるらしいと聞きました。中医って基本ドクターを指すんですが。もちろんこの通教でもいろいろな勉強は課されるのでしょうけど、基本中医学の上級・大学院レベルの話ではないようです。ちなみに中国国内で中医を名乗れるのは基本、医師免許を持った人です。医科大学行ってレジデント5年とかやってやっと取れるので、決して通信系で取れるものではありません。中国大学「日本分校」で取れる国際中医の「国際」はどの国を指すのかわかりませんが、欧米では一切通用しません。最近ネットであやしい資格が横行していると聞いていますが、患者様にご迷惑がかからないことを祈るのみです。

ちなみに医師免許を持った医師・MD(メディカルドクター)は、アメリカだとほとんどの州で200-300時間ほどの実習をやれば、別途「鍼師」の資格は取れます。ので、MD に L.Ac.がついている人は医師免許があり鍼師でもある、ということ(彼らも実技だけでなく、東洋医学の基本セオリー、ツボも経絡も勉強します。)

州ごとに違うライセンスの「前提条件」があるので、例えば、州に認定された学校を修了していること(州外学校の場合却下される場合も!)、XX時間の実習を終えていること(州により規定時間が違う)、バイオロジー、解剖学や薬学などの西洋医学も修了していること、ハーブの勉強も修了していること、などなど州によりいろいろ違う条件を課しています。米国はとっても広いので、この条件がゆるい州と厳しい州があり、州によっては、学士(4年制大学以上の学位を持っていること)や、ハーブ(日本でいう漢方)の試験をパスしないとだめとかあって、引越し先の資格をちゃんとチェックしないと、そのまま鍼師として就業できない場合もあるので注意が必要。

最も厳しい州、として知られるのが、カリフォルニア (CA)。独自制度を取っており、気軽に引越せない州(笑)。ニューヨーク (NY) は比較的規制がゆるく、学士号がなくても二年制大学を修了していれば資格は満たせることになっています。(でもお隣のNJでは学士号がないとダメです。)が、現実は、日本で学歴が合致しており免許を持っていても、そもそも英語で試験を受け州の合法な住人、ビザ取得者である必要があるため、外国人は現地学校に行きなおす人が殆どです。が、現地学校は Acupuncture School は基本 Graduate Schools = 大学院なので、学士(4年制大学)の資格はその前に必要です。

NCCAOM (National Certification Commission For Acupuncture and Oriental Medicine) という、米全土の中医学や鍼の試験、資格や就業を統括する団体があり、ここで資格やライセンス試験などの詳細を細かく見ることができます(残念ながら英語しかないけど…。)ここで登録して、その後州ごとのライセンス試験をとおると、州と連結し情報がアップデイトされます。この団体は米国全土でどのライセンスを持った鍼師がどの州で今仕事をしているのか管理できるという仕組みです。ここでdiplomat という資格を(試験をパスして)取れば、規制のゆるい州ならライセンス試験をいちいち取らないでそのまま就業できます。が、このDiplomat資格を取ると、継続して勉強をしてそれを証明する必要があったりという違いがあります。

日本と違って、お灸の普及が一般的に全然足りなくて、Acupuncture & Moxibustion = 鍼灸という名前は浸透していないのが残念ですが、1960年代に鍼が中国からアメリカに入って来てから、この60年で東洋医学はアメリカでは飛躍的に普及しました。ロスやマンハッタンなんかでは本当に沢山クリニックがありますし、美容やスポーツなど専門も分かれている。

ちなみに、派閥や流派による治療法の違いや、解釈の違いは勿論ありますが、治療家同士の間では、内輪政治や、この先生についたから義理があってこっちの先生には習えない、みたいな感覚はほぼゼロです。だってアメリカの成人人口の50%はなんらかの慢性疾患をもっているにも関わらず、アメリカ人人口のうち4-5%しか鍼治療を受けた経験がないほど、鍼はまだまだ未開発分野。都市部では飛躍的な成長をしたとはいえ、まだまだ医学ではマイノリティ=少数派の世界なんです。

なので治療家の間では「まずは鍼(灸)師という素晴らしい職業の地位向上と認知度をみんなであげることが大事だから、お互いをジャッジせず助け合いましょう」的感覚で、おおらかに、お互いに優しく受け入れあう土壌があります。もっと競争論理が強い、MDやPhysical Therapy(理学作業士)などの西洋医学的世界にはない、東洋的ソフトさかもしれません。

私は個人的に、アメリカ人で東洋医学・中医の治療家で、攻撃的な人、スノッブな人、権威的な人、大げさな事を言う人(=俺ならXXなんて一回で治せる、とか)、または政治的な人にまだ会ったことがありません。知名度の高い先生でも、気さくで真摯。傲慢にはならない。これは、東洋医学の奥の深さを知っているから、かもしれません。

アメリカは広い。歴史も浅い。なので柔軟なマインドと大きな心が必要なのですね。 私は海外ですが日本鍼灸系(?)なので、日本で1500年以上の長い鍼灸を経て今の日本独自の鍼灸文化があるんだと思います。私はジェントルな日本鍼灸がとても好き。日本鍼灸を逆にアメリカで普及させたい。もっと知ってもらいたいといつも思っています。

日本からアメリカに来て鍼の仕事をしたい方がいたら、ご連絡いただければ、私でお答えできる範囲であればお答えしますよ!

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